インターネット「ぴゅう太郎」 「いつか何処かで」
16 竜宮の港
港に帰ってきました。十年ほど、名古屋港に来ていないとまるで浦島太郎になったようです。「JETTY(桟橋)」というお土産店とレストラン街のコンポジットを通り抜け、「シートレイン」という遊園地を横に歩いて行くと名古屋港水族館があります。
ここは、すでに4周年を過ぎていました。
ベンチに腰掛け、自分で焼いたパンで早い昼食をとりました。
ほんの二十年前は、今は跡形もない寂れた「桟橋」が目の前にあっただけでした。現代はWAREHOUSE(倉庫)の前で人形師八代目玉屋庄兵衛作からくに人形が正午を告げています。貝のオブジェから現れたのは「浦島太郎」でした。玉手箱の煙が消えると亀に乗った若者は、あっという間に、老人になっていました。
名も知らぬ遠き島より流れ寄る椰子の実ひとつ(島崎藤村)。
幅100km、厚さ1000m、流速2m/s程の世界最大の海流「黒潮」は、詩的な椰子だけでなく現実に巨大な木さえも贈り届けます。そして大漂流木あるいはジンベエ鮫とともにイワシ、カツオ、マグロなどの浮魚も日本近海にやってきます。きらきらと輝くマイワシ、片口イワシ(アンチョビ)を追ってスマ、ハカツオ、カツオ、キハダマグロ、クロマグロなどが背鰭を折たたんで生きるために止まることなく酸素吸入し泳いでいました。
3000m以上の深海は地球表面の70%近くを占めます。
その海底砂漠にはチムニーとよばれる熱水の噴出口があり、その周辺にはシンカイコシオリエビ、ユノハナカニ、シロウリガイ、そして地球内部エネルギーを食べるハオリムシなどがまるで海底のオアシスに休息するように光の無い世界で生きています。
カイロウドウケツ(偕老洞穴)という海綿動物の胃腔には雌雄一対のエビがそのビーナスの花篭の中で生涯を過ごしています。
チョウチンアンコウのメスはそのグロテスクな体にこれまで出会った全ての雄たちをまるで勲章のようにぶらさげています。
さらに高圧力な深海には、ホウライエソ、コウモリダコ、リュウグウノツカイ(竜宮ノ遣)の他にまだ人類未知のクラーケン(巨大イカ)やプラヌラ(クラゲの着底卵)がマリンスノーも届かない静寂の暗闇の中に潜んでいるような気がしてなりません。
珊瑚虫の遺産は世界最大多種の熱帯魚の住処ラグーン(礁湖)です。長さ15m890トンの水槽には120種2700匹の魚がいるそうです。タイガース文様のコガネシマアジ、丸い小判のようなマルコバン、興奮すると丸文様がはっきりするカスリハダ、ナポレオンの帽子をかぶったようなナポレオンフィッシュ、決まった枕で横になって眠るゴマモンガラ、横縞ふっくらタイプのヤスジチョウチョウウオ、縦縞すらっとタイプのヨスジフエダイ、子供の時は横縞円文様のサザナミヤッコの幼名を持ち大人になると縦縞になるタテジマキンチャクダイ、編目模様のアミメフエダイ等々を青色と黄色でくっきり色分けしたナンヨウハギのカラー制服をした美しい竜宮ガイド姫に教えてもらいました。
巨大な亀の化石「スッペンデミス」の階にはカメの回遊槽があり傍らには産卵場もあります。目の回りが黒く恐そうな赤ウミガメ、白く優しそうな青ウミガメ、そして鼈甲タイマイがいます。
赤ウミガメの産卵からの飼育は水族館内では世界初だそうです。
浦島太郎の乗ったカメはどのカメなのでしょうか?そんなくだらない質問は止めにして外に出るとすっかり暗くなっていました。
振り返って水族館を見るとそこは竜宮の港のように想えました。
「いつか何処かで」