インターネット「ぴゅう太郎」

 「赤道の向こうに」

17. 赤道の向こうに


 オーストラリアの大地は広大すぎて距離感がつかめない。東京から大阪までの距離を直進する道路があると聞いても今ひとつ実感がわかない。
広い大地に点在する住宅にしても、日本では一部屋分しか買えない値段でオーストラリアでは一戸建が買えるといわれてもそれが安いのか高いのか見当がつかない。ヘリポートやヨットハーバー付の高級住宅にしても高価であることはよくわかるが、たとえ宝くじに当たってもその高級住宅に住むことはできないだろう。なぜなら生活のパターンが日本とまったく異なるからだ。
住宅の改造、補修はおろか、自分で部屋の壁紙を張り替えたりしたことがない私は、日本ではとても買えない一戸建を手に入れても維持することはほとんど不可能だろう。

 最近日本人によるオーストラリアの不動産購買熱は少し冷めてきた。少しまえまでは、オーストラリアに住宅を買う日本人がたいへん多かった。狭い住宅に住んでいる日本人にとって、広い住居はとても魅力的に映る。1坪百万円と言われて驚く日本人はいないと思うが、オーストラリア人はそのことをよく理解できないだろう。なぜ日本人は休みもとらずに働くのだろう、なぜそんなに土地に固執するのだろう。きっとオーストラリアの人の理解を得るのは無理と思う。ところが、一方日本人はオーストラリアで庭の芝生の手入れから住居の模様替えまでさまざまなことに直面し、さらにオーストラリアでは働くことはできないので長期の滞在に要する費用はしだいに重くなってくる。日本では狭い住居空間で住みにくいが、オーストラリアでは住居空間は広くなるもののやはりその広さを維持することは難しいのである。

 退職したら住みやすいところに引っ越して遊んで暮らしたい。
だれもが想う夢だと思うが、これを実現する方法を私はついに見つけた。まずオーストラリアにいく。しかし人が多い観光地は避けること。次に広い住居は求めないこと。そしてヘリコプターまたはモーターボートを必要としないで海産物が容易に買えそうな部屋を借りること。そこでは日本の衛星テレビニュースが見られること。さらに地震、雷、そして山火事、水害などがないこと。犯罪がなく、誰が近くに住んでいるかすぐわかること。また水と空気がおいしいこと。きがるな服装で毎日過ごせること。医療が無料で受けられること。できれば税金がないこと・・・
基本的なことだけを述べたつもりだったが、だんだん現実から離れていくことに気が付く。

 夏目漱石の有名な言葉は改めて私を覚めさせた。
・・・
兎角にこの世はすみにくい。すみにくさが高じると安いところに引越したくなる。どこにいっても住みにくいと覚ったとき詩ができ画ができる。
・・・
しかし、いまだにどうしても悟りきらない私は、オーストラリアに夢をみてしまう。
夏目漱石はオーストラリアをきっと見ていないにちがいない。
赤道の向こうに安住の地はかならず存在すると私は夢の中で信じているのである。


「赤道の向こうに」