インターネット「ぴゅう太郎」 「赤道の向こうに」
16. 蟹と牡蠣
「お味しんぼ」という物語の著者がいる。この物語は「料理は芸術である」と言った書道家、陶芸家、そして美食家である実在の人をモデルにして料理についてわかりやすく書かれたもので、日本の今風グルメブームのきっかけになった。
この著者が、オーストラリアに在住して「オーストラリアの天然ハマチを食べたら、日本の養殖ハマチは食べられない」と書いている。私は、現在日本の魚の海産物はほとんどが輸入と聞いていたので、むしろ日本産ハマチ養殖のどこが問題なのか知りたいとも思った。養殖では餌が限られ、また海のいけすでじっと我慢して成長するハマチのストレスがその味を悪くしているからと、かってに解釈した。残念ながらオーストラリアで寿司を食べなかったので、天然ハマチの味を知らずに帰郷してしまった。
オーストラリアのレストランでは必ずといっていいほど海老を食べた。海老はおそらく日本に大量に輸出されているので日本でもオーストラリアでも同じものを食べているのだろうが、やはり本場の新鮮な海老はおいしい。特にモートンベイ・バグと呼ばれる「うちわ海老」はおいしかった。
日本の正月に飾られる大きな伊勢海老はオーストラリアから主に輸出されるので味は同じと思うが値段は格段に違った。
海老もおいしいが、牡蠣は絶品である。日本とオーストラリアの牡蠣は卵生と胎生との違いがあって交配することができないという。成長条件もかなり異なる。牡蠣は生で食べるのが一番なので日本でこのオーストラリアの牡蠣を味わうのは至難である。食中りに気をつけながらも牡蠣のおいしさには旅の喜びを感じる。オーストラリアの牡蠣なべはどんなものなのか、グルメでない私にとっても、非常に興味が湧いてしまう。海老と牡蠣とくれば最後はやはり蟹である。蟹について、日本人は誰でもうるさいだろう。タラバ、花咲といった手足の数が8本のものから、毛ガニ、マツバといった10本のものまで種類が多い。
オーストラリアではマッドクラブという泥ガニがマングローブの湿地帯にいる。30センチ以上の大きさでそのハサミも拳ほど大きくとても頑丈である。きっと味は日本の蟹に比べてまずいだろうと思っていたが、まったく予想を裏切ってとても深い味わいがある。このマッドクラブは、日本では食べたことがない。このマッドクラブでつくる蟹雑炊はどんな味だろう。
オーストラリアの海産物の豊かさに感激する。
日本にとって水産業はとても重要な産業であるが、現在は200カイリ漁業水域と貿易均衡の観点から、海産物を捕る産業から買う産業に変化してきた。養殖・輸入物と天然物とは価格と味両面からみても比べものにならないことは誰がみても明らかだ。つまりオーストラリアと日本とを食の素材で比較することには到底むりがある。そこで、私は養殖物と輸入物は避けて、毎年できればオーストラリアの冬に来て、日本よりもずっと安くておいしい天然物を食べたいと思った。顔に夏の太陽からの紫外線を避けるためクリームを塗る面倒と屋外での食事をじゃまする蝿から解放されるからである。しかし、その冬、あの新鮮な天然の生きた海老牡蠣、そして蟹も冷凍物になっているかもしれない。
「赤道の向こうに」