インターネット「ぴゅう太郎」

 「赤道の向こうに」

10. 星砂によろしく


 ゴールドコーストの砂浜を歩くと不思議な音がする。
鳴砂である。砂を手にとってよくみると、細かなサンゴとか貝殻が多く含まれている。太古からの生き物の化石が長い間に微小な砂となり、今それらが擦れあって音としてよみがえってくる。
一面、白い砂浜に不思議な音が聞こえていた。
ただ、今思うと残念なことは砂浜はほんとうに白一色だったのかそして海岸の香りについてはまったく覚えていないことである。

 私は昔、沖縄に遊んだことがある。八重山諸島の西表島、石垣島、そしてその間に小さな島があり、そこで1週間ほどグラスボートの操縦をして観光客に熱帯魚の説明をしていた。最初は図鑑に書いてある正確な名前で説明していたが観光客はつまらなそうだった。そこで、ハタタテダイのことをエンゼルフィッシュ、アオブダイは全部雄でありアカブダイは雌で必ず近くにいるといった具合の不正確な説明をした。すると不思議に観光客は納得した。だからほんとうの話はいつのまにか消えていった。
私は熱帯魚の説明をしながらサンゴ礁ばかり気にしていた。
サンゴ礁に乗り上げてしまっては一大事である。スクリューはもちろん、サンゴに重大な傷を負わせてしまうからだ。
かといってすばらしい熱帯魚を観光客に見せないわけにいかない。私はずっと近くにいたにもかかわらずとうとう熱帯魚ともサンゴとも友達になることはできなかった。ところで、その島の砂浜のほとんどは、有孔虫という微小な生物の貝殻からできている。そのかたちは、よくみると星型であり、星砂の島として知られている。私はその一面の星砂の上を歩いていた。
しかし、歩くとその砂が鳴くかどうか残念ながら覚えていない。そのときは、あまり砂の音に対して敏感ではなかった。

 グレートバリアリーフで観光客としてグラスボートに乗った。ここのサンゴはさすがに大きい。テーブルサンゴ、脳サンゴのほかに船長の言うには「スパゲッティサンゴ」もあった。ゆらゆらと波に揺れる柔らかなサンゴである。
ただし、これは冗談の名前なのか本当の名前なのかは知らないが私にはよく理解できた。たくさんの大きな黒いサメもグラスボートと一緒に泳いでいた。魚たちは船から餌をなげると競って海面に水しぶきをあげた。私たちは歓声をあげた。
船長は、そのサメのような大きな魚を
"TURUM"
と呼んでいたがそのときは日本の名前を知りたいとも思わなかった。一方、美しい小さな熱帯魚は見られなかった。実際の海は水族館のようにはいかない。いつでも同じ魚はいない。大きな魚たちの陰できっと美しい熱帯魚がたくさん隠れているに違いないが、それに気が付かずにおわってしまった。

 旅から帰るといつも後悔が残る。
もう一度いって小さな熱帯魚に会いたい。
もう一度行って、星砂の海岸を歩くときの音が聞きたい。もう一度行って、砂浜の香りを確かめたい。もう一度行って・・・
砂浜は私にとっていつも遠いおもいでしか残せないのである。あのとき、オーストラリアの鳴砂(Singing Sand)はその沖縄でのおもいでの歌「星砂によろしく」という曲を確かに唄っていた。
・・・ような気がする。


「赤道の向こうに」