インターネット「ぴゅう太郎」 「赤道の向こうに」
8. ビールでビーフ
オーストラリアのホテルサービスで妻は子供用のビーフステーキと飲み物を頼んだ。ここではこの大きさで十分なのである。
スーパーではビーフがとても安いにもかかわらず大きすぎて買うことができなかった。
日本で、ある日妻は肉屋で安い肉を見つけた。
店主に
「これは輸入牛ですか?」
と聞いた。すると彼は
「いいえ」と答えた。そこで
「ほんとに和牛なの?」と訊くと、彼は再び
「いいえ」と言うのであった。妻は怪訝な顔で
「いったいこれは何なの?」と聞くと
「国産牛です」
と彼はいった。
「和牛と国産牛とでどこが違うの?」
と伺うと笑いながら
「味と値段だね。和牛は神戸、但馬、松阪牛のことで国産牛はそれ以外です」
和牛は優秀な牛にビールを飲ませ、風呂にいれてスポーツはさせないで大事に育てる。
妊娠していない雌牛やひ弱な雄牛は真っ先に売られるのと逆の発想なのである。
私は若鶏や子羊の肉はおいしいと思う反面可哀想に想う。もし、私が鶏ならば、年老いて弱った鶏肉になりたい。しかしもし牛だったら、可哀想な硬いビーフになるよりも、いさぎよくビールを飲んで贅沢なビーフになりたい。
オーストラリアのレストランでは、最初のうち私は硬いビーフを想像し、ビーフよりも魚を選んだ。しかし家族はなぜかビーフを選び「あーおいしい」といっている。
ほんとうに柔らかいビーフか疑わしいがとにかくおいしそうに食べている。
最初のうちは拒んでいたが、数回レストランで食べる内にそのビーフのひとかけらを勧められるうちに食べてみた。オージービーフについて私の選択は間違っていた。そしてオーストラリアの最後の日私は迷わずビーフを選んだ。ところが、そのビーフはなんと硬くおいしくなかったのである。
私はオーストラリアにも豪州牛と国産牛があることにあらためて気が付いた。
そのとき賢い家族はビーフよりも魚を選んでいたのは言うまでもない。
私は海老と蟹がすきだ。
甲殻類は焼くか鍋にいれて煮るのがふつうである。濃いスープの中の味のエッセンスは白いご飯と黒い海苔と交わりとてもおいしい。
日本では箸をつかってそれを優雅に味わう。
オーストラリアのうちわ海老やたいへん大きな泥ガニは蒸してスペシャルソースをつけて食べる。
私はハンマーとフォークを巧くつかうことができなかったので手でその泥ガニを割って食べた。
とても野生的に甲を散らかし、赤ん坊になった気分である。
濃いスープはないが、あの鋏はおもったより深い味がしておいしかった。
わたしは、この大きな 年老いた蟹はきっと牛の場合と違ってビールではなく、ワインを飲まされて育ったにちがいないと思った。
「赤道の向こうに」